2016年3月9日水曜日

金物工法をオススメするワケ

金物工法(ドリフトピン工法)とは


ちょっと遠回りして前提部分から解説します。


1 木造よりコンクリートのほうが強いんでしょう?

   強いです
   強いんじゃないかな
   たぶん強いと思う
   でもちょっと覚悟はしておけ

   コンクリートは強さを計算して作ることを要求される工法です。
   ですから、必要な強さをその建物に計算して持たせるわけです。
   それを超える力が加われば当然壊れます。

2 木造でも在来工法より2×4のほうが強いんでしょ?

   上記と同じです。2×4も強さを計算して作る工法です。
   計算された強さを超える力が加われば壊れます。
   ものすごくざっくりした説明ですが本論とは別なのであしからず。

3 じゃ、在来工法は計算しないの?

   します。でもかなりこれまでは曖昧で基準も緩かったです。
   今でも確認申請上は「建築士の設計なら当然計算してるよね?」
   だから審査しません、って事になってて木造2階建ての構造強度は
   確認申請ではスルーです。(4号建築)
   確認申請は建築士がすることになっていますが、代理で出してる場合が多く
   実態は責任をもった建築士が不在の事も多いです。(監理はなおさら)

   計算そのものは、きちんとした計算方法が決まっていてそれに沿って
   設計すれば2×4に劣りません。
   
   古民家などの伝統工法ではそこに働くメカニズムが複雑で簡易な計算方法が
   確立されていません。ですので上記の規定によって「確かめてるよね?」って
   言うだけで内容は確認申請ではスルーです。
   ですので個々の設計者の知識と技量で強度が決まります。

4 木は弱いの?

   材料単体で言えば木は大変強い材料です。
   強度は圧縮・引張・曲げの三種類で判断しますが、圧縮と引張は非常に強いです。

   特に引張は強く引張耐力ゼロのコンクリートが鉄筋でそれを補ってるのに比べれば
   格段に強いです。

   割り箸を縦にして、上下に押しても引っ張っても壊せないですよね。
   ただし、横からの力には弱いです。割り箸を横から折るのは簡単ですね。

   しかし、それも断面積(太さ)次第です。太くなれば格段に強くなります。
   家では横に使うのは梁ですが、太い木が昨今ではとれなくなってきてます。
   そういう場合には、太い梁にだけ集成材を使います。

   このように材料としての木は非常に強いのです。

5 じゃ、在来工法の何が問題なの?

   3のようなきちんと計算していないのは別問題として。
   梁と柱を組み合わす工法ではそのジョイント部の強度が一番重要になります。

   大事なのでもう一回書きます。「ジョイント部の強度が建物強度のすべて」です。
   コンクリート造でも重量鉄骨造でも同じ事が言えます。
   そして、コンクリートや重量鉄骨ではジョイント部を剛接合といって強固な接合に
   することができるのですが、木造ではピン接合といって耐力なしを前提にした接合
   として扱います。

6 ジョイント部にはどんな力がかかるの?

   ジョイント部には地震の時に二つの力がかかります。

    a 建物を横から揺さぶられる事でジョイント部がナナメに変形していく力
    b 柱と梁が引っ張られて抜けてしまう力

    aに関しては周知されている力です。木造在来工法ではジョイント部に耐力は
    見込みません。
    鉄骨やコンクリートのように剛接合にする方法がこれまで無かったからです。

    最近の一部の金物工法では、剛接合にできるようになってきましたが、
    それはあくまで特殊な工法として分類されるので在来工法ではありません。

    古民家のような「非常に」太い柱と梁で構成される場合は、ジョイント部に 
    「ある程度」の耐力を見込めますが、その内容が複雑すぎて単純化された
    計算方法がありません。

    耐力ゼロをどのように補強するかというと、筋交いや合板などの面材補強です。
    筋交い等を作ることで、ジョイント部にナナメの変形が起こる力が加わる事
    を防ぐわけです。

7 bの力ってどうやって防ぐの?

    ここいらが今回のお話のキモです。
    この力をきちんと計算するようになったのはここ10年くらいです。
    この力を専門用語ではN値と表現します。

    現在は在来工法ではプレカットと言って、工場で組み合わせる仕口を加工して
    くるのですが単純に作ってるのでこの仕口では引き抜く力に対抗できません。
    それで、外付けの金物で補強するのです。すべてのジョイント部にN値に合わ
    せた補強金物を選択して大工さんが後付で横から施工するのです。


    これらはコーナー金物やホールダウン金物、羽子板金物等と言ってその選択と
    施工は重要です。木造の在来工法では、釘や金物が重要な耐力要素なのです。

8 釘や補強金物がない方がいい木造なの?

    接合部を複雑に加工して抜けにくくした仕口は古来からの大工さんの技でした。
    それを使った伝統工法を礼賛する人も多いですが、それには条件があります。
    古民家のような「非常に」太い柱と梁があって初めて可能なことなのです。
    柱に仕口が入るホゾ穴を設けると、柱がその分削られます。
    これを断面欠損と言います。
    4を思いだして下さい。木は太さによって横からの力に耐えるのです。
    断面欠損があるとその欠損分だけ柱は実質細くなります。

    現在の在来工法では柱の太さは10.5cmから12cmが通常で、一部13.5cmと
    いうのでも稀です。古民家の柱・梁とはサイズがまるで違います。

    これでは大きな断面欠損に耐えられません。ですのでプレカットでは単純な
    仕口に留めます。
    この程度でさえ10.5cm角の柱では、欠損部を大工さんが持って持ち上げたら
    ポッキリ折れてしまった、という話が普通にあります。
     
断面欠損イメージ
      伝統工法はそれだけ太い柱と梁があって可能な工法なので、在来工法と
    ごっちゃにしてはいけません。
    古民家の柱(大黒柱)や梁が太いのは断面欠損を補う為で、太さで支えて
    いるわけではないのです。

9 金属は錆びるでしょ?

    2×4工法は釘を使いますが、欧米では100年経ってる家もざらです。
    環境も高温多湿の地域もあります。
    その程度で釘が腐っていてはありえない話です。
    木に埋め込まれた金属は保護されますし、メッキの技術も近年進歩しています。
    そもそも、釘が濡れるような雨漏り・結露状態では木がもちません。
    そんな状態ならメンテナンスのほうが先ですね。

    また、古来の日本で金物が使われなかったのは大変高価だったという側面も
    大きいです。
    金属を人の目に触れない場所に使うなど、貴金属を屋根裏に使うぐらい
    「もったいない」使い方だったのです。
    清水寺は建立時は国家プロジェクトで資金が潤沢だったそうです。
    それで清水寺では当時から一部に金物補強が使われていて、現在でも当時の
    金物がきちんと役目を果たしているそうです。

10 なんで金物工法(ドリフトピン工法)がオススメなの?

    ようやくここまできました。ε=( ̄。 ̄;)フゥ

    ① 単純に強い
    ② 断面欠損がほとんどない
    ③ 施工ミスがない
    ④ コンパクトで目立たない
    ⑤ でもお高いんでしょ?(安くなりました)

    ① 受け金物とドリフトピンは肉厚の金属でできており、がっちりメッキ&
      塗装されています。
      耐久性が高く引き抜きにも強固に耐えます。 
      その辺にほっといても雨ざらしじゃ無い限り100年でも平気でしょう。
      計算上aの耐力は見込んでないですが、おそらく結構あります。
      なぜならこの形式で剛接合になる製品もあって、それとの違いは工法認定 
      を受けているかいないかの違いでしかないからです(大雑把に言って)。
      ジョイント部が建物の要です。外付けの金物で後施工するより安心です。
        結局金物が強さの要なのだったら強いほうがいいです。

    ② 断面欠損は木の構造材にとって大きな弱点になります。
      ボルト穴だけの欠損で済むのは大きなメリットです。
                      
    ③ 施工ミスは多少は避けられない問題です。(無くて7トラブルくらい)
      建築は 現場施工・手作業・一品生産 の成果です。工業製品と一緒に
      してはいけません。
      工業製品は、試作品も作った上での工場生産の大量生産す。
      生産過程がまったく違うのです。

      職人の技術、現場監督の技量、設計者の監理、そういった人手をかけて
      こそまともに出来上がるのです。人件費の固まりが建築です。

      aの耐力は今では筋交いや構造用合板、その他でいくらでも強くできます。
      しかし、そうするとbの値(N値/引き抜き力)もどんどん大きくなります。
      各ジョイントごとにN値を出して、それに見合った金物を選択し、それを
      全部きちんと大工さんに施工してもらうのは結構複雑な作業で施工ミスの
      温床です。
      N値を出す場所は各階の柱の数(さらに柱の上下のヵ所)だけあるのです。
      はっきり言ってまともにやってない所もあるでしょう。
      出来てしまえば見えないし、地震で被害があってもわからないです。

      金物工法(ドリフトピン工法)は、設計段階でN値に見合った金物を
      チョイスして、プレカット工場でセットしてしまいます。
      これなら間違えようがないです。
      どのみちプレカットが主流なのですから、大工さんの出番は金物を
      せこせこ取り付けするよりはもっと創造的な所でお願いしたいです。

    ④ この金物はほとんど木の中に埋め込まれるので現しで使っても外付け金物
      が出っ張るようなことはありません。
      壁の中でも余計な邪魔者がないので、筋交い金物と干渉しません。
      
    ⑤ 私が通常の外付け金物での在来工法と金物工法でのプレカット材の見積り
      を両方とった所延床30坪弱の家で、前者が200万円弱、後者で210万円
      でした。(杉無垢材での構造材含む)
      つまり10万円ちょっとの違いしか無かったのです。
      
      頼む所や内容でも変わるでしょうから、場合によってはもう少し高い
      かもしれません。
      しかし、考えて頂きたいのは総額で2500万円の家でも構造材という
      もっとも重要で材料の大半をしめる部分の費用がそれくらいでしかない
      ということです。
      構造材は人間で言えば骨格です。そこを僅かにケチって、例えて言えば
      将来に家が骨粗相症になるかもしれないのと何十年経っても丈夫でいる
      のとどちらを選択するべきでしょうか?
 

11 デメリットはないの?

    一つ上げると、構造材に集成材を使う事がデフォルトだったりする事です。
    さらには工務店が限られたり特殊な計算が必要だったりする工法もあります。

    まず、構造材は無垢材が一番良いです。集成材は大きな梁が必要なところだけ
    使えばよいです。
    と言うのも、柱は前述したとおり垂直の力を支える分にはさほど大きな耐力は
    いりません。
    集成材である必要は全く無いばかりか、最近流通してるホワイトウッド集成と
    いう柱は、もともと構造材には向かない木を加工したもので、当初の耐力が
    どれくらいもつかは未知数です。
    安さだけで売られてますが、構造材の値段が前述のような中で僅かにケチる
    必要は全くないです。
    (棟数をたくさん発注する住宅メーカーにはメリットあるかもしれませんが)

    ちなみに梁もそうです。ヤング係数という曲げ耐力が重要になるのはスパンの
    飛んだ梁だけでそこだけマツの国産集成材を使えば良いのです。
    集成材は輸入材がほとんどなので、国産の木を使うという意味でも無垢材が
    良いです。

    ほんとは無垢材でもいくつかの金物工法は使えます。
    なぜ集成材を押すかというと、無垢材は多少暴れたり割れたりするからです。
    きちんとした乾燥材ならそう大きくは暴れませんし、多少暴れても丁寧に施工
    すれば問題なく金物は収まります。
    プレカットメーカーは、そうした事ができないレベルの工務店にも水準を
    あわせなくてはいけないので、問題が少ない集成材を使わせてるような
    気がします。

    私のつきあいのあるプレカット、製材所は無垢材でもちゃんと出してくれます。
    どの工務店を選んでもそれは使えます。
    無垢材の銘柄指定(富士北山も含め)もできます。
    ですのでそのようなデメリットはありません。

金物が高価だった時代は大工さんが木で強固な仕口を作っていましたが、現代のプレカットでは仕口は引っ掛けるだけのものになってしまっています。
金物工法は強固な仕口を現代の技術で再現したものです。
ぜひ金物工法(ドリフトピン工法)を指定してください。